ヒューマンコンピュータインタラクション(Human Computer Interaction, HCI)に関する書籍を少しずつまとめています。
入門編
コンピュータと人間の接点 (放送大学教材)
日本語で書かれたHCIの入門書として、もっとも新しい書籍が発売された。放送大学の授業の内容をまとめる形で、放送大学の黒須先生と東京大学の暦本先生が執筆された。前半は黒須先生による概念説明とHCIの理論について、後半は暦本先生による技術と現代〜未来のHCI研究について、2部編成で解説されている。
当然ながら次に挙げる書籍と内容の重複もあるのだが、本書は座学というより実践的な学問としてHCI研究をまとめたという印象を受けた。また、HCIという言葉が出てくる以前から続いているロボット、AR/VR、CGなどの周辺分野の研究についても関連させながら、2000年以降の新しい研究についてもまとめている。HCIに興味のある学生・社会人が読む最初の書籍として適していると思われる。
ヒューマンコンピュータインタラクション入門
HCI分野を網羅している日本語の本が多くない中、タイトルに「入門」と銘打っているのがサイエンス社の「Computer Science Library 11 ヒューマンコンピュータインタラクション入門」だ。大学の講義で使えるように、技術的要素や認知科学などの内容に分けて、丁寧な構成でまとめられている。
実はこの本を手にとったのはHCI分野の研究を始めてずいぶん時間が経ってからである。ある程度の知識のある大学院生ならいくつかの部分は読み飛ばしても問題ない。この本の「アフォーダンス」に関する記述は理解しやすくまとめられているが、あとで紹介する「誰のためのデザイン?」を読んだほうが概念の背景や発想も含めて知ることができる。
インタフェース設計
次に挙げる2冊はかなり古い内容なので、HCIの歴史を知りたいという場合におすすめできる。
ヒューマンインターフェースの発想と展開―人間のためのコンピューター
アップル社の研究者とインタフェースデザイナが中心になってインタフェース設計に関する論文やエッセイを収集した本である。もともとはアップル社内の教育に用いるための手引を作るはずが、内容が充実しすぎたため書籍として発売したようだ。著者の中にはアップル社の社員もいるが、他社のデザイナ、大学教授、ニコラス・ネグロポンテやマイロン・クルーガーも寄稿している。
良くも悪くも古い本なので、初期のマッキントッシュを題材にした話(称賛と批判の両方)が多く見られる。1980〜90年台のコンピュータ事情とインタフェース研究の黎明期の輪郭が描かれているので、インタフェースとHCIの歴史に触れることができる。日本とアメリカのAmazonのレビューでは「内容が古くて時代にそぐわない」という意見も見受けられたが、むしろ30年も前の”最新”の研究動向がわかる貴重な本である。そういう意味では、この本を持って国内外の学会に乗り込めば、研究発表のいくらかは「車輪の再発明」であるということに気付かせてくれる本でもある。
The Art of Human-Computer Interface Design
「ヒューマンインターフェースの発想と展開」の原著。 日本語版はページ数の関係上、省略された章がいくつもあるので英語で読める人は英語版を買ってしまってもいいかもしれない。持ち歩いて読むには日本語版のほうが軽くて断然便利ですが。新品は高いので中古で十分。(英語原著はまだ読んでいないです)
ドナルド・ノーマン
誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論
Wikipediaによれば「アフォーダンス」という言葉を誤用したのがノーマンということが書かれているが、個人的にはギブソンのアフォーダンスを設計論として拡張した点で「ノーマンのアフォーダンス」を理解することもインタフェース設計において重要だと考えている。
「誰のためのデザイン?」のストーリーの中心は、どういうインタフェース設計が良くてどれが良くないかというのを事例を交えながら解説していくことである。言われてみれば当たり前なんだけど、言われるまで気がつかないということもある。特にエンジニアの立場からしてみれば、自分が作ったシステムは完璧に動いていて問題はないはずなのに、他の人には使いづらいし苛々させてしまう。使いづらいだけならいいのだが、これが原発の制御室だったら一大事である。実際に原発で起きてしまった事故のような事例も取り入れながら、上は原発事故、下は部屋の照明スイッチまでクスッと笑えるようなジョークとヒューマンエラーを織り交ぜながら説明してくれる。
インタフェース設計においてこの本で取り上げている重要なキーワードを抜き出すとすれば、マッピング、フィードバック、そしてメンタルモデルである。一読したあとは上記のキーワードを思い浮かべながら設計や実装をすれば、あなたのシステムについて指導教員や展示会の来場者に小言を言われなくて済むはずである。できれば卒業論文を書き終えたあとで読むのが望ましい。卒論で作った酷いシステムを思い浮かべながら、自分のシステムのどこがまずかったかを自省できる。
【改訂版】 この本の改訂版が出ました。翻訳を担当された安村先生のお話をWISS2015のナイトセッションで立ち聞きしたところ、旧版とは多少異なる内容とのことです。
エモーショナル・デザイン
その後に出版された「エモーショナル・デザイン」は「誰のためのデザイン?」で著者自身も気づいていなかった「情動」という面から生活のモノやインタフェースについて書かれた本である。